<重量輸送> ALE社による船舶エンジンクランクシャフト交換
ALE社による船舶レシプロエンジンのクランクシャフト交換の動画があったので見てみます。
船舶内は限られたスペースしかありませんが、エンジンのような機械ものは例外なく劣化・摩耗・損傷が発生します。レシプロ機関のクランクシャフトは通常は交換することはないですが、何十万時間も運転すると摩耗や細かな損傷の蓄積等で交換することがあります。
船舶のエンジン室は船体奥深くにありますので、デッキ開口部から船体内へ部品を搬入出する作業が発生します。ALE社は超重量級のものの運搬のほか、こういった狭所での重量物搬入出も得意としています。では、何コマか見てみる。
この作業動画はMS ZaandamというCruise Shipの船舶エンジン取り換えをキャプチャーしています。MS Zaandamという船はイタリア製でアメリカの船舶会社が補油しています。メキシコーハワイ間やカナダーニューイングランド間で就航しているよう。
https://en.wikipedia.org/wiki/MS_Zaandam
このような外形です。ちょっと調べたところ日本の旅行会社からでもこの船のクルーズを取り扱っているよう。
https://www.nta.co.jp/cruise/ship/msrotterdam.htm
これが船体内にあるエンジン室です。レシプロ機関が2機見えます。歩廊もありアクセス性はよく考えられている。
エンジン室は船体下部にあるため上部ハッチから資材を搬入。
これから搬入・搬出するクランクシャフトのために仮設のパッドアイ(ラグ)を溶接。
エンジンの芯だし用に現在の据え付け位置(Reference Point)を確認。
エンジン上部ケーシングにボルトをねじ込み。青い服を着ている方はベンダーの専門家か?
上部ケーシングに合うように作られた仮設のジャッキアップ用のブラケットを取り付け。
エンジン上部にはこのようなホイストがついています。船で使用するため、航行中の揺れでホイストが滑らないようラック&ピニオン式(Rack and Pinion)になっています。
このホイストは回転式延長ジブがついており、台座が回るようになっているため、フックをエンジンの隅々まで真上に配置できます。斜め吊りが不要のため作業効率が上がります。
油圧ジャッキを使ってケーシングを持ち上げます。
船外では70トンのラフターが2台待機しています。
新しいクランクシャフトがトレーラーにて搬入。
70トンラフター二台で共吊りします。なぜ共吊りなのかは次のコマで判明。
側部搬入ドアからクランクシャフトを差し込んでいきます。このように差し込むためクレーン二台で吊り渡しが必要になります。
ぎりぎりの搬入路。
そこかしこにチェーンブロックを巻きつけて狭所への配管引き込みのごとく吊り渡ししていきます。
この後、開口部からさらに下部デッキへと下ろしていきます。墜落防止のためにフルハーネス着用の上、上部配管から安全帯を取っています。さすが世界のALE。
先端のチェンブロックを緩めてクランクシャフトを縦に向けていきます。
クランクシャフトには赤色の仮設のリフティングラフがついています。
無事下部デッキに吊り降ろし。
さらにエンジン室へもう一つドアを通過。そこかしこにチェーンブロックがつるのように伸びている。
この後はレールに乗せます。これはSkidding Railです。コロ引きと似ていますが、実際はテフロンシートの上に機器を載せて油圧で押し出していくものです。耐荷重はコロ引きよりも大きく、通常は数百トンの荷重を運搬する際に使います。
エンジンの上部ケーシングがジャッキアップされます。これは以前取り上げたJack up方法の小さいバージョン。
https://safetyfast.hatenablog.com/entry/2019/03/25/215046
人が入れるようここまで上げます。忘れていましたが船の中のため揺れます。揺れ対策としてしっかり固縛します。
クランクシャフトを上部ケーシングから分離して下ろします。なぜ上部ケーシングと一緒に持ち上げたのかと考えましたが、これをこのままコロ引きするために一度持ち上げておく必要があるためです。段取りが良く考えられている。
コロ引き(テフロンシート上での横すべり)で抜出。この場面では普通にチェーンブロックで引っ張ってます。
続いて新しいシャフト。
ぐるぐる回してます。配管や壁の突起に括り付けてます。作業前にちゃんと強度確認はきっとしているのだと思います。
滑らせてエンジンの前まで新しいクランクシャフトを持ち込む。
再度持ち上げてレールの方向転換。
逆の手順をたどり、再度滑らせてクランクシャフトを据え付け位置に。
持ち上げます。
持ち上げるためにケーシング内側上部にラグのようなものがある模様。おそらくこういうメンテナンスを考慮した設計になっている。
フタを閉じます。
芯出し用にブラケットの溶接。
エンジンにフタをしたのち、ブラケットのジャッキボルトを使って芯出し。
当て板をしてエンジン本体が傷つかないように注意。以上で終わりです。
感想:
船の保守保全・オーバーホールはとても難しいです。設計時にスペースを見ていない場合もあるため、このような特殊業者の力を借りて大型機器のメンテナンスが行われる。
船用の特殊なホイストもあり、ツールの進化で作業効率の向上を目指すのも大切。日本の業者以外でもこのような泥臭い共吊りや吊り渡しをやっている。